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東京家庭裁判所 昭和50年(少)824号 決定

少年 M・A(昭三四・九・一四生)

主文

少年を満二〇歳を限度として中等少年院に戻して収容する。

理由

一  本件申請の趣旨は、少年は昭和五〇年一二月一六日、少年院有明高原寮から仮退院を許され、保護者の許に帰住し、仮退院期間を昭和五四年九月一三日迄として東京保護観察所の保護観察下にあるところ、定められた遵守事項である、「シンナー仲間とは交際を断ち、シンナー吸引は絶対にしないこと」、「何事も保護司に相談し、その指導に従うこと」のそれぞれに違反して、仮退院の翌日に早速、シンナー・ボンドを吸引し、以後同月一八日、同月二四日、昭和五一年一月五日、同月一九日以後同月二三日前記保護観察所に引致される迄の間、それぞれシンナー・ボンドの吸引を続け、さらに同月中旬頃から、シンナー仲間であるA(一五歳)とシンナーを一緒に吸引するなどして交際し、その都度、担当保護司○藤○二から、シンナー・ボンドをやめるようにとの強い指導を受けながら、これをやめようとせず、同保護司の指導に従わず、このような薬物耽溺のため、当初本人が希望していた高校進学も事実上不能となつたばかりでなく、安定した就業を期待することも著しく困難となつており、このような本人の行状は、家族にも深刻な影響を与え、このまま本人を家庭に留めるときは不測の事態を招くおそれもあり、保護者は本人の監護に疲れ切つている状態にあるので、この際、すみやかに本人を少年院に戻して施設内処遇を施すことにより、将来の更生を期することが最も妥当な措置と認め、本申請に及んだと云うのである。

二  保護観察官の少年及びその母に対する各質問調書、保護司作成の保護観察経過報告書、当審判廷における少年及び父母の各供述によれば、少年が本件申請の趣旨のとおり遵守事項に違反したことは明らかであり、当裁判所調査官の調査、鑑別結果によれば、少年は、シンナー等の薬物耽溺に基く問題で少年院に送致せられたにも拘らず、未だ薬物に対する心理的依存状態を脱することが出来ず、少年院入院以前同様の状況にあり、保護者ら家族にはこれを監護善導すべき力がなく、この際少年を中等少年院に戻して収容し、再教育する必要がある。

よつて本件申請を理由あるものと認め、犯罪者予防更生法四三条一項、少年審判規則五五条少年院法二条三項により主文のとおり決定する。

(裁判官 中村護)

参考 少年調査記録(抄)〈省略〉

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